“ドクターズキャリアプレス”の「この医師に聞きたいコーナー」では初めての勤務医師の方の登場です。吉田直樹医師は、現在、大阪府交野市の交野病院にて、平成28年3月に回復期リハビリテーション科の医長に就任して、1年6か月で全くのゼロ状態から、たった一人で、35床を常にフル稼働しています。多くのコメディカルとの連携に大変、気を遣うチームの医療の現場で、一体、どうやって吉田医師はリハビリ医療を進めているのか?今回は、その秘訣を語っていただきました。
吉田 直樹(よしだ なおき)
社会医療法人信愛会 交野病院リハビリテーション科医長
1977年 大阪府生まれ。
兵庫医科大学大学院医学研究科 先端医学先行 疼痛情報制御系 疼痛神経学終了。
医学博士 大阪大学脳神経外科入局後、リハビリテーション科へ転向。その後リハビリ医師として、3病院で10年以上を過ごし、立上げから、チーム医療統括まで全ての管理運営を行う。
日本リハビリテーション医学会 専門医、日本プライマリ・ケア連合学会 認定医、認定登録医業経営コンサルタント。


現在のポジションと職務を教えてもらえますか?
A. 現在は交野市にある交野病院にて、リハビリテーション(以下リハビリ)科を統括する医長という役職です。
内容は、回復期病棟35床の主治医、病棟運営・管理、転院・転棟患者の選定、リハビリ科収益管理、療法士などの教育・指導まで含まれています。回復期病棟では回診・カンファ・ムンテラなどを行い、回復期病棟だけでなく一般病棟を含めた病院全体の嚥下機能検査を行っています。
外来では、リハビリ前問診を行い、痙縮治療のボツリヌス療法など取り入れています。また、身障書類作成、他科で作成する書類の身体計測も行います。

どのような経緯と理由で、リハビリに進もうと思われましたか?
A. 元々は、学生時代にリハビリ医学に関する書籍を読んだことがきっかけです。リハビリ医学の特徴である全人的な考え方に魅力を感じました。リハビリに結びつくと考え、脳神経外科を研修先に選びました。しかし実際は、リハビリ科は確立された1つの専門領域であり、習得するには時間を要すると思い、早期にリハビリ科に移りました。後に家庭医療にも関心を持つようになりますが、総合医療や生活を重視した考え方はリハビリ医学と通じるところがあると思います。

ここまで、約1年6カ月で回復期リハビリ科を、ゼロの状態から立ち上げられたということですがどのようなことが課題であり、重要でしたか?
A. まずは、リハビリ医師が極めて少ないということです。従って、患者だけでなく、療法士を含めた医療スタッフのリハビリ医師への認識もあまりない状態であり、どのように主導していくかの指針が少ないのです。リハビリ医療は、多くのコディカルが携わる医療です。チーム医療を進めていく上で、大切にしていたことがあります。
  第一は、組織として仕事をしていく最低限のルールであり、言い換えれば人と人との関係においてのマナーです。通常の組織では当然のことですが、まずは相手の意見をしっかりと聞く、次に投げかけられた事に対しては必ず返答する、そして自分の意見を陰ではなく、堂々と相手に伝えることを徹底しました。
  第二には、同じチーム内には、かなり幅広い世代の人がいます。そうなると、30代で常識とされていることでも、20代では意味がわからないことが少なくありません。そんなときには、常識だからではなく、できる限り理由をきちんと説明して、納得してもらうように努めることが必要です。時には、根拠がないことも説明する場合があり、例え納得に至らなくても、その姿勢を示すことが重要と考えています。
  第三に行った事は、教育システム・カリキュラムの作成です。まず、指導者に一任するのではなく、指導者の評価も行う定期的な面談を行いました。また、新人でも能力の差があり、最初なかなか習得が難しい人にでも、その人にあった指導方法を考えてきました。しかし組織としては、収益という現実を意識しておく必要があり、その中で、どのくらいの期間を指導・教育に費やせるかを常に模索しております。
以上のようにしてチーム医療の元を作っていくことを心がけました。
  このような過程を経て、リハビリ科の雰囲気が少しずつ変わってきました。また、回復期病棟においては、一通りの流れを作りました。それらによって、回復期病棟の雰囲気が、変化をみせ始めています。業務の目的や内容が明確となり、さらに患者の改善や家族の喜ぶ姿をみれば、職員はやりがいを感じることができます。実際の収益に関しては、回復期病棟のリハビリ時間(単位数)の見直しや、施設基準?の取得などで増加しましたが、さらなる発展には、職員一人一人の意識と、リハビリ医療の質の向上が必須です。

これからの、当面の目標は何でしょうか?
A. まずは、リハビリ科・回復期病棟のシステムの確立・発展と安定的な収益の確保です。次に、職員の報酬制度の見直しです。リハビリ効果を療法士などのスタッフの働きとみなし、それを報酬につなげること、いわゆる成果報酬制度の導入は可能かどうかを考えています。リハビリ医療の質の向上だけでなく、日々の生活に悩むスタッフへの待遇改善を図ることにもなります。前提としては、基本給の標準化などは整備しなければなりません。

現在、お感じになっている課題は何でしょうか?
A. リハビリ医療は、社会においてとても重要な役割を担っていると思います。その反面、まだまだ一般の方への認識が不十分な場面も見受けられます。さらには、医療者の間でも十分に理解されていないと感じることもあります。リハビリ医療は一般の医療と同様に、まずは症状そのものの回復を目指します。しかしどうしても難しい場合は、その症状を持ちながら生活・人生を再び進めていくことを努めます。従って、症状のみに着目すると期待に沿えないこともあり、丁寧に説明を繰り返すことが求められます。ところが、実際には説明を行うことのできる医師すなわちリハビリ医師が少ないのも問題の1つと思います。

これから、リハビリ医師を目指す方にとって利点はございますか?
A. 現在、回復期病棟の数などリハビリ医師の需要が多いにも関わらず、リハビリ医師の絶対数が少ない状況です。個人的には、リハビリ医師として標準的なことを行えば、早期に成果が表れやすいと考えます。リハビリ医師にとっての重要な能力を1つ挙げるとするならば、回復期病棟の立ち上げと言えます。一般的医学知識・リハビリ医療知識・リーム医療だけでなく、病院にとっての収益、地域においての役割など、広い視野と知識が求められます。院内においては、他科との関係性においても、柔軟さとともに時には強くこちらの考えを主張することも必要です。実際は、専門医も少なく明確なマニュアルも有るわけではなく、悩む場面も少なくありません。しかし、その分リハビリ医の存在意義を示すことができるのかもしれません。

在宅医療、開業についてはどのような意見をお持ちですか?
A. 在宅医療には、元々興味が有りました。リハビリにおいても、回復期病棟から退院後の慢性期において、あまり介入ができていない人が多い実情があります。在宅リハは今後益々重要と考えております。
現時点では、開業については考えていません。今の病院で、まずはリハビリ科の実績を上げることが必須であり、その上で新しい医療機器を導入することにより、これまで主に主観で評価していた歩行分析なども定量化することができると思います。リハビリ医療の課題の1つには、定量化・客観評価が一般病院レベルでは、まだまだ行われていないことであり、その課題を克服することにより、より科学性の高いリハビリ医療が実現できると考えています。

医師の報酬についてはいかが思われますか?
A. 医師が病院にもたらした収益と、医師の報酬は連動することが望ましいと思っています。質の高い医療を提供すれば、患者数が増えて、結果的に病院収益も上がります。医師の一般的な評価項目には、勤務態度や周りのスタッフから評価などが含まれますが、スタッフ間の信頼がなければ良いチーム医療はできません。すなわち、最終的には病院収益に結び付くと思います。また医師が働くことにおいて、これまで主治医であれば、24時間オンコール体制で病院からの連絡に備えるべきだというような、いわゆる暗黙のルールで縛られることが多かったと思います。個人的には、夜間・休日時間帯は給与を得ている当直医の仕事と思います。ほかに病院によっては、退職金制度が無いなど、医師は不安定な立場でもあります。このような、納得がいかない点をできる限り解決して勤務するためには、最初の契約さらには契約更新をしっかりと行うことです。私は、医師の労働環境をいかにして守っていくかについて、日々模索しております。

最後に、今後の抱負についていかがでしょうか?
A. 今後は、まずはリハビリ部門から医業コンサルにも携わっていきたいと思っています。これまで臨床、研究が医師の代表的な仕事と考えられていましたが、私は、医療制度、報酬も含めて病院の経営に関しても、医師だからこそ取り組みやすい部分があると考えています。


吉田先生、このたびはご多忙の中、インタービューに応じていただきありがとうございます。今後、地域の皆様の健康に貢献するとともに、医師の勤務環境の改善、病院の収益を向上する医業コンサルタントとしてさらに活躍されることと思います。
次回のご報告をさらに楽しみにしております。